- 2020.11.24
- 【レポート】衆議院議員会館にて、院内勉強会を実施しました
2020年11月19日、衆議院第一議員会館第4会議室にて、本サイト「ナタロン」を運営するNPO法人デートDV防止全国ネットワーク(以下、全国ネット)が企画する院内勉強会「すべての子どもたちにデートDV防止教育を」が開催された。会場には国会議員11人を含む総勢50人の参加者が集まったほか、全国で120人以上の一般参加者がwebでの生中継映像を視聴した。
本勉強会は、「DV防止法」を改正し、学校教育の中での「DV防止教育」を盛り込むことを求める全国ネットが、その必要性を広く共有することを目的としたもの。
13時30分からの2時間にわたり、予防教育に取り組む団体の関係者や、研究者、弁護士らがデートDVの実態や予防・啓発事業の現状やDV防止法にまつわる課題について、様々な立場から発表した。「デートDV防止教育の必要性」山口 のり子(アウェア代表)
会の冒頭に挨拶した全国ネット代表理事の山口のり子(アウェア代表)は、これまで自身が行ってきたDV被害者支援の経験を元に、新たな被害者を生み出さないための鍵はDV加害者を生み出さないことだと語った。
これまで出会ってきた加害者の思考や言動のパターンが酷似していて、暴力の手口も一様であったこと。加害者達は間違った価値観を社会の中で学んできたということを指摘。新たなDV加害者を生み出さないためには、子どもたちが歪んだ交際観や恋愛観に自ら気付いて、健康な関係性を作れるようにするための「教育」である。ただし、学校現場では未だに力で支配するやり方を取っていたり、根強いジェンダーバイアスがある教師もいるため、DV防止教育を教育機関に任せるのは得策ではないともいう。そうした課題を乗り越えるためにも、教師ではなく、外部の専門講師によるプログラムで防止教育を提供する仕組みを作ることの重要性を訴えた。「デートDVの実態と予防教育 実施状況について」阿部真紀(認定NPO法人エンパワメントかながわ理事長)
続いて全国ネット事務局長の阿部真紀(認定NPO法人エンパワメントかながわ理事長)がデートDVの実態と、予防教育の実施状況について報告した。
2016年、当事者世代である中〜大学生にデートDV予防教育を受講した上でアンケートを取ったところ、30項目あるデートDVの中で一つでも被害にあったと答えた割合は、交際経験があるひとのうち38.9 %(女性では44.5%、男性では27.4%)にも及んでいた。2組に1組ないし3組に1組の割合でデートDVが起こっているというのが若い男女の恋愛関係の実態だ。
具体的な被害内容として多かったのは、「返信が遅いと怒る」「他の異性と話をしないと約束をする」などの「行動の制限」。こうした制限からデートDVは始まっていくのだという。
次に多いのが「別れたら死ぬ」というような精神的暴力に属する脅迫。これが実は殴る・蹴るなどの身体的暴力よりも恐ろしく、被害者を「別れたくても別れられない状況」に陥れる危険性がある。
その他にも「首を絞める」という身体的暴力や、「嫌がっているのにセックスをする」「避妊に協力しない」といった性的暴力も女性を中心によく見られる被害だった。デートDVは、暴力があったあと一転して優しくなる期間があり、その後また再び暴力が振るわれるというサイクルがある。このサイクルが繰り返される中で暴力は激しくなり、発生周期は短くなっていく。
こうしたサイクルに陥る中で「相手は自分を思って行動してくれている」のだと思い込んでしまう被害者も多く、デートDVの被害に気づけなくなっていく。
傍から見ていると「結婚していないのだから別れればいい」と思ってしまいがちだが、被害者には別れられない理由がたくさんあって容易に別れられないのが実態だ。そうした実態を踏まえ、当事者に向けては「別れられない人が悪いのではない」というメッセージを伝えるとともに、こうしたデートDVの構造を保護者や教職員などの周囲の大人が理解していく必要があると語る。「デートDV」という言葉が生まれて17年経過した現在、予防教育の現状はどうなっているのだろう。2018年4月〜19年3月までの1年間で実施されたデートDV予防教育は、全国ネットが把握している限り全国で1265回。小学生から大学生まで18万5731人の児童・生徒・学生が予防教育を受講していた。
全国各地で、専門知識を持った団体が「デートDVの被害者も加害者も傍観者も作らない」ことを目指し、さまざまな予防教育プログラムを実践しているという。資料はこちら(「デートDVの実態と予防教育 実施状況について」阿部真紀)
内閣府、文部科学省の取り組みに関する報告
勉強会には、行政の担当者として内閣府や文科省の担当者も出席し、それぞれの府省で行われているデートDVに対する取り組みについて説明した。
内閣府では、デートDVの実態に関する独自調査(2017年実施)を行い、その結果、女性の5人に1人の女性が交際相手からの暴力(デートDV)を経験していることが判明。20代女性に限ると3人に1人だった。
また、女性被害者の4割、男性被害者の5割はどこにも相談しておらず、その理由の多くが「恥ずかしくて言えなかった」(女性の55.4%、男性の22.2%)から。
こうした実態に対応するため、内閣府では「DV相談ナビダイヤル #8008(はれれば)」や、「DV相談+(プラス)」といった相談窓口を開設。開設以来、多くの相談が寄せられており、コロナ禍の今年5月・6月の相談件数は前年同月と比べおよそ1.6倍にまで増加した。資料はこちら(「内閣府におけるデートDVに対する取組について」内閣府男女共同参画局)
文科省では、デートDVを含めた性犯罪・性暴力について、子どもの発達段階に配慮した教育を充実させる取り組みを進めていて、内閣府と共同でわかりやすい教材や年齢に応じた適切な啓発資料、指導の手引きなどの作成に向け調査研究を実施している。
資料はこちら(「いわゆる『デートDV』防止に関する文部科学省の取組について」文部科学省)
また今年6月には、関係府省が「性犯罪・性暴力対策強化の方針」決定。これを元に令和2年〜4年までの3年間を性犯罪・性暴力対策についての「集中強化期間」とし、その一環として「デートDV」をはじめとした暴力に関する教育・啓発を進めていくそう。
「DV防止法改正のポイント」戒能民江(お茶の水女子大学名誉教授)
この他研究者や法律関係者からの発表もあった。
お茶の水女子大学の戒能民江 名誉教授は「DV防止法改正のポイント」と題して、2001年に制定・施行された「DV防止法」が、およそ20年間運用される中で見えてきた課題と、改正に向けての主要な論点を解説。
DV防止法をはじめとした日本のジェンダーに関わる法律は、女性の「権利」に基づき体系立てられてないことを問題視している。女性がDVを受けない権利、自分で必要な支援を選択できる権利といった女性の「権利」の発想がない現在の法律の基本的スタンスを見直し、抜本的な改正を図る必要があると述べた。「先進事例としての台湾DV防止法について」長安めぐみ (群馬大学ダイバシティ推進センター副センター長)
群馬大学ダイバシティ推進センター副センター長の長安めぐみ氏は、「先進事例としての台湾DV防止法について」というテーマで、アジアで最初にDV防止法を制定(1998年)したDV予防の先進国である台湾の予防教育の現状をレポート。
台湾では、学校や幼稚園の教員・管理職員・指導カウンセラーなどにDV防止のトレーニングを提供する義務があり、生徒にもDV防止の教育が義務づけられている。その結果すべての子どもたちが防止教育を受講できている。
「家庭内暴力禁止法」「性的暴行犯罪防止法」「ジェンダー平等教育法」という3つの法律が子どもたちのDV防止教育を保証していて、予防教育の内容を示すとともに年間の授業時間まで明記。
「家庭内暴力防止法」はデートDVやDVの予防などについて年間4時間以上、「性的暴行犯罪防止法」ではデートドラッグや薬物の使用防止を含む性的暴行防止について年間4時間以上、「ジェンダー平等教育法」ではジェンダー平等やLOBTQなどについて各学期少なくとも4時間以上の授業の実施を義務付けているという。資料はこちら(「先進事例としての台湾DV防止法について」長安めぐみ )
「DV防止法改正についての意見書について」斉藤秀樹(弁護士)
弁護士の斉藤秀樹氏は、日弁連が今年10月20日まとめた「DV防止法改正についての意見書」の意義と内容を説明。
まず意見書作成の経緯の説明があった。昨年児童虐待防止の具体策強化のために児童虐待防止や児童福祉法など関連する合計5法が改正された。その中にDV防止法も含まれたものの、改正内容は軽微なものに留まってしまい、多くの課題が残されたままになっている。ただ、この改正には附則があり、いくつかの内容について「三年を目処に検討をし、その結果必要な措置を講ずる」という文言が記されている。
この附則を踏まえ、施行(令和2年6月)から3年後の2023年までに、DV防止法の改正が視野にはいってくるだろうという予測のもと、それに向けての議論を進めるため日弁連は意見書をまとめたという。
意見書の中では大きく分けて8つの提言がなされているが、そのうちの一つに義務教育過程及び高等学校において、DV防止に向けた授業を行うことを義務付けるべきであるとする内容が盛り込まれている。資料はこちら(「DV防止法改正についての意見書について」斉藤秀樹)
NPO法人デートDV防止全国ネットワークからの要望
勉強会の最後に、司会を務めたNPO法人ピルコン代表の染矢明日香氏が、全国ネットからの要望書を読み上げた。要望書の内容は以下のとおり。
1) 子どもたちに対して防止教育を国や地方公共団体が実施することを義務付けるよう「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」 を次のように改正すること。
(ア) DV防止法第24条にある、「 DV に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする」という努力義務を、すべての子どもたちに教育機会が十分保証されるよう実施しなければならない義務とする旨の規定にすること。
(イ) 子どもたちへのDV防止教育は、身近に起こりえる問題として子どもたちが認識できるように「デートDV防止教育」をその内容とする。その内容については、デートDV防止教育に実績のある民間団体と協議して検討すること。
(ウ) 子どもたちへのデートDV防止教育は、たとえば台湾など海外の先進的な事例を参考にし、義務教育課程及び高等学校等において、授業時間が必ず確保されるよう年間のカリキュラムが組まれるようDV防止法の中に明記すること。2)女性に対するあらゆる暴力(DV、性暴力、セクハラなど)をなくすためにも、「ジェンダー平等 」を基軸とした「デートDV防止教育」を推し進めること。
3)デートDV防止教育の実施にあたっては、国及び地方公共団体が連携して推進し、国及び地方公共団体は民間団体と協働し、その活動を支援するような仕組みを作ること。
出席議員の反応
この日の勉強会には与野党から多くの国会議員が参加した。
開催にあたって協力をした野田聖子議員は、「共有の問題意識である、人口減少・少子化をどう解決していく上でも、その周辺事情をしっかりと整理していくことが大事だ」とし、人工問題に関しても性教育の不足が原因の一つであることを指摘。少子化対策の観点から見ても、性教育で妊孕性(にんようせい:妊娠しやすさを表すことば)についてきちんと教えられていないことで、ライフプランを立てづらく、妊娠がしにくい年齢になってから初めて妊活に取り組むことになっていると主張。
そうした観点も踏まえた上で、「考え方が固まらない(子どもの)うちに、性教育や人権教育を行う必要がある。しっかり(妊孕性などに関して)科学的なことを教えて、なおかつパートナーをリスペクトするということを教えていくことが大切だ」と述べた。その他、発言した議員は、
【衆議院】大河原雅子議員、木村弥生議員、串田誠一議員、玉木雄一郎議員、西岡秀子議員、吉田つねひこ議員。
【参議院】芳賀道也議員、福山哲郎議員、宮沢由佳議員、山添拓議員。- ライター:notalone