- 2022.03.15
- 【開催レポート】デートDV防止スプリング・フォーラム2022
9回目となるデートDV防止スプリング・フォーラム2022は、昨年に引き続き新型コロナ感染症の流行状況に鑑み、3月6日にオンラインで開催された。
今年のテーマは「性暴力とデートDV」。午前10時から2回の休憩を挟み17時30分までの開催で、内閣府、文部科学省、警察庁からの行政報告に続き、法制審議会に参加している山本潤さん、朝日新聞記者で連載「子どもへの性暴力」に取り組む大久保真紀さん、国際セクシュアリティ教育ガイダンスの翻訳に関わった艮香織さん、映像ジャーナリストの伊藤詩織さんらのお話を伺った。間に、小グループに分かれての交流タイム、デートDV予防教育の定義や効果測定について、またユースプロジェクトのアンケート報告も盛り込み、充実したフォーラムとなった。参加者は182人。
開会挨拶では、デートDV防止全国ネットワーク代表の中田慶子が、2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻について、戦争は力で相手を支配する圧倒的な暴力、今日のフォーラムでは、さまざまな視点からデートDVと暴力がない社会をどうしたら実現できるのか、ともに考えていきたいとの言葉があった。
以下、プログラムの概要をお伝えする。
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いわゆる「デートDV」防止に関する内閣府の取組
内閣府男女共同参画局長 林伴子さん
行政報告では、まず内閣府男女共同参画局長の林伴子さんが、性犯罪・性暴力対策の集中強化期間(2020〜2022年度の3年間)の政府全体の取り組みについて、調査結果も踏まえ報告した。
内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(2021年3月公表)では、女性の約6人に1人、男性の約12人に1人が交際相手からの暴力を経験している。無理やりに性交等された被害は女性の約14人に1人。その時期は20歳代が約5割をしめ、加害者の大多数は顔見知りの関係であった。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの相談件数は、2020年度、21年度とも前年度に比べ増加し、21年度上半期で2万9425件。相談体制の拡充のため、全国共通短縮番号「#8891(はやくワンストップ)」、SNS相談「キュアタイム」を2020年10月より、夜間休日コールセンターを21年度10月より開設し、22年4月からさらに拡充の予定。
文部科学省とともに、「生命(いのち)の安全教育」の教材・手引きを21年4月に公開、モデル事業を実施するほか、女性に対する暴力をなくす広報活動として、啓発資料(ポスター、リーフレット、カード、啓発シール、バッジ)の作成、全国327か所でのランドマークのライトアップ等で「望まない性的行為は性暴力」というメッセージを発信。
毎年4月は「若年層の性暴力被害予防月間」だが、とくに2022年4月から、成年年齢が18歳へ引き下げられることから、AV出演強要や契約に関する注意喚起等に力を入れ、従来の啓発資料に加えSNSやトレインチャンネル(電車内の動画)も活用し、積極的な注意喚起と啓発を実施する。
質疑応答のなかで、「生命(いのち)の安全教育」について、男女二元論的な表現ではないか、セクシュアルマイノリティへの配慮はとの質問があった。「政府内・議員等さまざまな考えのあるなかで作成した、改良を図りたいので現場からの意見を届けてほしい」とのこと。内閣府に新たに男女間暴力対策課が発足したことも付け加えられた。
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文部科学省におけるいわゆる「デートDV」防止に関する取組
文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課長 石塚哲朗さん
録画ビデオによる報告
文科省の取り組みは次の通り。
・児童生徒向けの「生命(いのち)の安全教育」:幼児期・小学校・中学校・高等学校・特別支援教育向けに教材・指導書の公開とモデル事業。中学校・高校向けではデートDVやSNSを通じた被害の実例、相談先なども盛り込んでいる。保護者向けや一般向けの啓発資料も作成。今年度は指導事例集を作成予定。
URL https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index.html・学校教職員を対象にした研修を実施。
・学校・大学の教職員に対し、「若年層を対象とした女性に対する暴力の予防・啓発のための研修(オンライン)」を周知し、受講を促進。
・暴力行為が発生した場合の適切な対応や、性に関する問題行動や性的被害防止とその対応、被害者の心身のケア等の取組について示すとともに、養護教諭やスクールカウンセラー等による学校における教育相談体制の整備を推進。* * *
警察における配偶者への暴力事案等及びストーカー事案への対応について
警察庁生活安全局生活安全企画課 澤田あすかさん
録画ビデオによる報告
警察におけるDV事案の相談件数は、増加傾向が続き2021年8万3042件。被害者の75%は女性だが、男性被害者や、相手方が同性という被害者も増えている。ストーカー事案の相談件数はこの5年ほど減少してきているが、2021年1万9728件。いずれも警察で受理した件数。
DVもストーカーも、加害者の執着心・支配意識が強く、急展開して重大事件に発展するおそれがあることから、被害者等の安全確保を最優先し対応している。警察署と警察本部との連携をとり、被害者の意思決定支援手続のために書面を用いて、ていねいな説明をしている。
配偶者暴力相談支援センター、婦人相談所、児童相談所、民間シェルター等、外部との連携が欠かせないことから、顔の見える関係を築く努力を払っている。
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【講演】同意のない性行為を性犯罪へ 〜被害者の訴えに応えられる社会へ〜
SANE(性暴力被害者支援看護師)山本潤さん
性暴力被害当事者・支援者として、加害者が適正に処罰される社会に向けて活動している山本潤さんは、一般社団法人Springを立ち上げ、現在は刑法改正に向けた法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会に当事者・支援者の立場から参加している。講演では、性暴力や性的同意に関する国際的な定義を紹介し、現在の法制審議会でどのような議論が行われているか、被害者の側にたった法制度の必要性を訴えた。
◉性暴力とは
性暴力とは「同意のない性的言動」であり、国連では「身体の統合性と性的自己決定権の侵害」、WHO(世界保健機関)では「本人のセクシュアリティに対する、強制や威嚇によるあらゆる性的行為や、性的行動への衝動で、被害者とどのような関係であっても、自宅や職場に限らずどのような場所であっても起こる」と定義している。
同意は、本来「ノー」が言える関係か(対等性の有無)、「ノー」が尊重されるか(強制性の有無)、その伝え方なども踏まえて評価されなくてはならない。
また、神経生理学において、深い恐怖の反応として凍り付き反応(フリージング)があることが理論化されている。心理・精神医学においては、感情や感覚が麻痺し、苦痛から逃れる症状「乖離」が起こることが明らかにされてきた。
加害者は、抵抗されにくい弱い立場にあるものを選び、脅しや心理操作ももちいながら追い詰める危機的な状況のなかで被害が起こるため、被害者は抵抗できないのが当然であり、PTSDなどの精神的後遺症も深刻である。性被害を被害と認識し加害者を訴えるまでに、何年も何十年もかかるにもかかわらず、時効により訴追の機会がないなどの問題点がある。◉被害者の立場にたった刑法改正へ
長期にわたる実父からの性虐待への名古屋地裁無罪判決等をきっかけにフラワーデモが日本中に広がり、被害当事者が語ることを批判せず傾聴するなど、社会の認識も少しずつ変わっている。刑法改正にあたり、法制審議会では主に次のことについて諮問され審議している。
・暴行・脅迫要件、心身喪失及び抗拒不能要件の見直し
・性交同意年齢の引き上げ
・地位・関係性を利用した性交等の処罰化
・わいせつな挿入行為の取扱いの変更(痴漢やいじめも性暴力)
・配偶者間の性暴力も処罰の対象に(事実婚や同棲パートナー間にも適用)
・若者等を懐柔する行為(いわゆるグルーミング)の処罰化
・公訴時効の見直し
・意思に反する性的姿態の撮影行為等の処罰化現在の、暴行・脅迫要件/抗拒不能・心身喪失は漏れだらけで、威圧や騙し、恐怖や洗脳、薬物(証明もむずかしい)、疾患・障害など、抵抗できない状況への理解がなく、被害者の受けた性暴力を罪として問えない現状がある。審議会のメンバーは法学者や実務家が多数を占めているが、なぜか「人間はみな対等だからノーを言えないのはおかしい」と考えている。なにを処罰すべきか、処罰すべきでないものを処罰しないようにするにはどうしたらいいのか議論しているが、スウェーデンなど海外の司法制度も参考に、「同意がない性交等は処罰の対象」にすべきだと考えている。
スウェーデンでは、自発的同意がない場合は犯罪と、例示もあげて刑法を改正した。人気ユーチューバーの動画で啓発普及し、若者の70%に情報が届くなど訴求力があったという。きちんと伝え、教育していくことが行動につながる。
「意思に反する性的姿態の撮影行為等の処罰化」については、撮影される、拡散される、お金を要求される、性売買を強要されるなど、スマホ普及とネット上のポルノ蔓延が背景にある。同意のない性的画像・撮影は罪、画像は被害者の求めに応じて削除すべきと考えている。
質疑応答時、「災害時の避難所等での性暴力の対策について知りたい」との質問に対して山本さんは「内閣府が『災害時のガイドライン』を作成し、トイレを男女別に離して設置するなど避難所チェックシート等と合わせて公開している。熊本地震の際も一定の成果はあったと聞いている」と回答。それを受け、内閣府の林伴子さんも「防災部局は男性がほとんどなので、都道府県の防災部局の女性と内閣府で『防災女子の会』というネットワークを作っている」と話された。
男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン
https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/guideline.html支援体制もなかったころ、「被害を受けるということはタブー視され、社会から排除されているようなものだった」という山本さんは、性暴力のない世界を作っていくために、どうしたら理解が進むのか、なにが問題なのかを一般市民・被害者の立場から伝え、議論していきたいと締めくくった。
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ユースプログラム報告|若者の若者による若者のための性教育(仮称)プログラム作成のためのアンケート結果について
デートDV防止全国ネットワーク理事(ユースプロジェクト担当) 三浦結香
録画ビデオによる報告
性暴力が起こってしまう背景に、性に関して誤った認識を持っていること、正しい知識の不足があると考え、若者による性教育プログラム作成を予定している。その事前調査としてアンケート調査を実施した。
対象 全国15〜24歳(性別不問) 期間 2022年1月8日〜16日 形式 Googleフォーム 拡散方法 団体HP、各種SNS(Instagram、TikTok、facebook、twitter) 回答数 257件 回答者属性 男性19.1%、女性75.1%、答えたくない3.1%、その他2.7% 回答者属性 男性19.1%、女性75.1%、答えたくない3.1%、その他2.7%
21〜23歳50%、東京、神奈川、埼玉始め全国34都道府県在住。主な内容
◎遅くとも中学校1年になるまでに性交、避妊の方法を教えてほしいと答えた人の割合。62%
◎中学・高校で教えられたもの(月経、射精、思春期の変化、性感染症)
◎中高生のときに、正しいと信じていたけど間違っていた情報(コンドームをつけたら妊娠しない、膣外射精・洗えば妊娠しない、キスをしたら妊娠する)
◎性に関して困っていること、誰に相談するか(友達、インターネット上の相談窓口)
◎中高生に教えてほしい内容(避妊・妊娠、ピル、性的同意)
◎交際経験のある人で、本当はいやだけど我慢していることは(連絡や会う頻度、性行為痛い、したくない)アンケート結果から、学校での性教育とユース世代の性に関する実態や意識にはズレが生じていることが見てとれる。多くの人がもっと知りたかった、教えてほしかったことに性交や避妊などをあげていた。今年4月からはこれらの結果を踏まえ性教育プログラム作成に取り組んでいく。
メンバー募集中につき、メールか団体インスタグラムから連絡を。
ddvbousinet@yahoo.co.jp* * *
子どもへの性暴力〜取材の現場から
朝日新聞編集委員 大久保真紀さん
朝日新聞では2019年12月から連載「子どもへの性暴力」が始まり、現在第6部。この取材班を率いているのが社会部記者で編集委員の大久保真紀さんだ。被害者がどんな思いでいるのか、何を望んでいるのかを読者といっしょに考えたいと、話を聞かせてくれる当事者を訪ね歩いて取材を重ねてきた。出会った当事者のお話を交え、周囲の大人に何ができるのかを語った。◉どこにでもある性暴力、その影響の大きさ
性暴力は珍しいことではない。女子は2.5人に1人、男子は10人に1人が、18歳までに盗撮や痴漢も含む性暴力の被害にあっているという調査結果が出ている(日本性科学情報センター)。自責の念をもちやすく、助けを求めにくい。被害の影響は下記のように多岐にわたり、一見すると問題行動にも見える。
- ・無鉄砲な自己破壊的な言動
- ・ネガティブな自己概念
- ・過度な警戒心
- ・対人関係障害
- ・周囲への注意減弱
- ・自傷や自殺念慮
- ・離人感
- ・性化行動
- ・集中困難
- ・身体症状(頭痛、腹痛など)
- ・睡眠障害
- ・被害や加害を繰り返す
- ・感情調節障害
◉語り始めた当事者
8歳のときの性暴力被害に、長く苦しんできた工藤千恵さん。「話してくれてありがとう」といたわり受け止めてくれた元同級生と結婚後もいくたびも危機に見舞われる。忘れたいと思って生きてきたが、なかったことにはできないと気づき、被害を語る活動へ。「1年のうち330日は笑っていられるようになった」。
工藤さんの被害は、当時、地元紙のベタ記事になり、匿名だったにもかかわらず周囲の人からの好奇の目にさらされた。今日では、被害者が希望しない限り、警察は逮捕事案を発表せず、報道もされない。しかし、工藤さんは、報道されることで傷つくこともあるが、被害当事者から連絡を受けるなど、プラスの面もあるという。笑顔の写真を掲載することに社内でも異論があったが、「被害者=かわいそう」などの固定化されたイメージに問題もある。被害者も笑って、幸せになっていいと伝えるためにも、その写真を選んだ。
男性被害者、義父からの性暴力被害者、教師や施設の指導員からの性暴力被害者、子どもの性を消費する社会の中の家出少女や児童ポルノの被害者…たくさんの当事者が、自分の体験がほかの人のためになるならと、話を聞かせてくれた。性暴力で4度の妊娠を経験した女性は、学校やアルバイト先などで見過ごされてきた。「おかしいと思うことがあったら、声をかけてほしい」。10代でボーイフレンドから望まない性交をされた少女は、帰宅後すぐにネットで調べてアフターピルを求め婦人科に行くが、親の同意がいるからと処方されなかった。外部講師に相談し支援を受けることができたが、「学校で性的同意の授業を受け、自分は断れると思っていたけど、実際は怖くて声も出なかった」という。
◉私たちにできること
被害を受けた子どもはさまざまなサインを発している。問題のある子ではなく、困ったことに直面しているかもしれない子。問題行動を怒るのではなく、なぜしてしまうのかの背景を聞いてほしい。軽いタッチやキスなど、「そんなくらい」と思うような行為も、当事者にとって大きな暴力となりうる。
もし相談を受けたら、そのまま受け止める。子どもの話を信じ、根掘り葉掘りは聞かず、専門機関につなげていく。話すことはとても力のいること、感謝の気持ちを伝える。打ち明けられた人の対応はセカンド・レイプになりうることを知っておく必要がある。
子どもたちへの性教育は、小さい時から繰り返しやっていく。子どもたちに「ノーを言おう」と教えることは大事だが、性暴力のときだけ「ノー」を言えるわけではない。ふだんの生活のなかで、「ノー」を言う体験、「ノー」の意思を尊重される経験が必要。日常生活で発する子どもの「嫌だ、やりたくない、やめて」を、大人がどれだけ真剣に受け止めているかが問われる。
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国際セクシュアリティ教育における包括的性教育とは? 〜デートDV予防教育の可能性〜
宇都宮大学准教授 艮香織さん
人権教育、性教育を専門にし、教員養成に関わるかたわら、戦争孤児として生きてきた女性たちへの聞き取りをライフワークにしているという艮香織さん。女性へのスティグマには性暴力・性売買への偏見が関わっているという。ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスに照らしながらデートDV予防教育のあり方を語った。
◉性教育ってどんなもの?
いま、性教育が注目されているが、誰のために、何のために取り組むのか、問い直さなくてはいけない部分がある。たとえば商業主義的で親の不安を煽るものや、〜をしてはいけない、〜をすると危険といった禁止教育、抑制教育など。「ノーと言えるように」もその通りだが、日頃から大人自身がノーを言えているか。意見表明していいという当然の権利があることが抜け落ちていると、言えない人の責任にされてしまう危険性がある。性はどう生きるかに関わる人権。
大切なことは、ハッピーに生きるために必要な性の情報を提供すること。子どもたちが学ぶことを保障され、子ども自身が選んで自己決定する。もし課題があったら相談し、変えていけばいい、その支援を受けられるか。そういうプロセスがない性教育は行き詰まってしまうのではないかと危惧している。
◉国際セクシュアリティ教育ガイダンスの包括的性教育とは
国際セクシュアリティ教育ガイダンスは、ユネスコや世界保健機関(WHO)などの国連の機関が共同して作った、一定の最大公約数としての文書で、2009年に発表された。その後、国連女性機関(UNWOMEN)も加わって2018年に改定版が作られ、2020年に日本語訳が明石書店から出版されている。ユネスコのホームページからも全文、無料でダウンロードできる、参考にしてほしい。
国際セクシュアリティ教育ガイダンスURL
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167このガイダンスに示された包括的性教育は、身体の仕組みだけでなく人間関係や社会とのつながりなど、性を広くとらえ、次の目標をもっている。
「子ども・若者たちの健康とウェルビーイング(幸福)、尊厳を実現することであり、尊重された社会的・性的関係を育てることであり、彼らの選択が、自分自身と他者のウェルビーイングにどのように影響するのかを考えることであり、彼らの生涯を通じて、彼らの権利を守ることを理解し励ますことである」
国際文書の翻訳なのでわかりにくいところもあるが、単発の授業ではなく教育課程に位置づいていることや、知識を学ぶだけでなく、価値観を揺さぶられる、行動に移すなどの能動的なプロセスを重視するもの。内容はそれぞれが重なり合いながら連動する8つのキーコンセプトで示され、5歳から18歳以上まで4つの発達段階ごとに学習目標が設定されている。
暴力についてなら、キーコンセプト4-1の暴力についての箇所は、大きくは「暴力って何だ、安全のためにどうする、減らすためにどうする」という3つの内容を学ぶ。◉デートDV防止教育は包括的性教育のひとつの切り口
ある保育園での取り組み。子どもたちがお医者さんごっこをやっていた。以前であれば「注意してやめさせる」だったが、どうしたらいいか保育者全体で考え、身体の機能やすてきさを伝えた。でもまたお医者さんごっこが起こる。保育全体が一人一人の子どもの選択を尊重した取り組みになっているかの見直しにつながっていった。性教育の取り組みも続けていたとき、傍観していた子が「だめだよね」と発言し、やられていた子が「やだけど言えなかった」、やっていた子が「ごめんなさい」と子どもたちの関係が少しずつ変わっていった。
暴力に関するアンテナが高くないと、課題の発見も解決の道筋も見えづらい。
1回やればいいということではなくて、園全体の取り組みの見直しや、関連した絵本を置いておく、保護者との学習会を開く、地域で学ぶ場をつくるなど、学びのスパイラルをどう広げていくかが大切。テクニックに特化しない、○○さんだからできる、これさえやればもうOKではない。実践者一人一人の子どもの捉え方がある、みんなで話し合いながら進展させていく。デートDV予防教育は包括的性教育のひとつの切り口。DV防止法の基本計画にある「青少年への啓発」に位置づければ、進めやすい。学校をプラットフォームとしながら家庭や外部とも連携していくこと、そして性教育全体への位置づけを確認することが必要になる。文科省「生命(いのち)の安全教育」も、その前後にどういう学びができるか、保育者・教員側が話し合いながら、子どもの現場に即して補足していくといいのではないか。
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デートDV予防教育効果測定調査の報告
合同会社Cono-base 中島悠生さん
当団体ではデートDV予防教育を普及していくために、2020年度から効果測定調査を開始した。NPOや社会的事業者の事業評価を手がける合同会社Cono-baseの中島悠生さんより、調査結果の報告がなされた。
課題の発生要因や構造について議論し、デートDVの要因を社会、コミュニティ、個人、親密な関係性という分類で整理したエコロジカルモデルを作成した。その上で、①暴力認知、②暴力の許容、③ジェンダー観という3つの尺度を設定し、デートDV予防教育の授業の前後で、子どもたちがどのように変化したのかを測定した。
測定対象者は中学2年生から高校3年生まで。
授業前と授業後で①〜③のいずれの尺度でも改善が見られた。
とくに、①の暴力の認知について、効果が大きいことが実証された。
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デートDV予防教育のガイドライン
デートDV防止全国ネットワーク代表理事 中田慶子
デートDV防止全国ネットワークには、全国のたくさんの団体が参加し、それぞれの団体で独自のプログラムをもっている。何を伝えたいかは共通していることから、その内容を議論し、確認したので紹介する。
デートDV予防教育の目標はだれもが「被害者にも、加害者にも、傍観者にもならない」ようにしていきたいということ。内容として3本の柱がある。
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01 暴力への気づき
身体的暴力だけでなく言葉や態度による支配も暴力。同意のない性行為も暴力。暴力が起きた時にできることを知る。周囲に起きる暴力も許容しない。
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02 対等な関係の学び
自分の気持ちを伝え、相手も尊重するコミュニケーションの方法を身につける。
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03 ジェンダー平等
社会にあるジェンダーバイアスに気づき、ジェンダー平等を目指す意識を育てる。
マニュアル化することに危険性もある。一人一人の経験や意識に向き合いながら実践することを大事にしたい。
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特別講演「わたしがわたしであるために…性的同意」
映像ジャーナリスト 伊藤詩織さん | 聞き手:一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン共同代表(デートDV防止全国ネットワーク監事) 伊藤公雄
警視庁に被害届を出した性暴力事件が不起訴となり、2017年に民事訴訟を起こした伊藤詩織さん。一審につづき2022年1月25日に二審・東京高裁でも性的暴行を認める判決が出たが、名誉毀損で反訴した加害男性側の訴えを一部認めたことから、現在最高裁に上告している。特別講演と告知されていた最後のプログラムは、対話を大事にしたいと、二人の伊藤さんの対談のかたちで進められた。
◉ 男性のためのレイプ救済センター開設、スウェーデン
刑法改正で、日本で、男性が性暴力の被害者として訴えることができるようになったのは2017年のこと。世界ではすでに2015年に「男性のためのレイプ救済センター」が開設され、ニュースで知った二人は、それぞれスウェーデンのストックホルムに取材・見学に訪れたという。
被害届がなかなか受理されず、被害者が救済されない日本とは対照的に、男性被害者のための救済センターは、医療的対応、6か月間の証拠保持、あらゆる選択肢の説明を受けたうえで意思決定の尊重など、被害者ファーストの対応がとられていた。総合病院の一角にあるが入り口は別で配慮がある。イギリスでも、ロンドンのレイプクライシスセンターには名前を伏せ、壁越しに警察に相談できるなど、被害者を守る体制が整えられている。
日本でも各都道府県にワンストップ支援センターが設けられたが、管轄省庁がバラバラで予算が十分でないことから、支援内容に差がある。被害者への言葉遣いひとつにも、心をくじかれる場合もあるが、諦めず次のところを探してほしい。ロンドンでは、一人の人が被害にあうとどれほどの治療や補償が必要か、その社会的損失を計算して、支援の予算にあてるとも聞いた。
◉同意とは、わたしがどうしたいか、自分の権利を知ること
民事裁判では認められたが、刑事事件としては、現在は「同意がない」だけでは罪にならない。山本潤さんが当事者として法制審議会に出ていることはとても重要だが、負担も大きい。被害者の精神状態が理解できない鈍感さ。鈍感というよりも無視、犯罪を容認してしまっているのではないか。すでに可視化されている問題なのに、それを変えていけないのは鈍感では済まされない。
受けてきた教育に課題がある。女子だけ生理の話を聞いて生理用品をもらって、あと性病は怖いという話だけ。性教育に、性交のその前の、コミュニケーションの話がなかった。同意とは、どういう選択をしたいか、自分の権利を知ることで小さいころから学ぶことが必要。でも学校で、自分たちの選択や意見が尊重されるという経験がなかった。私がどうしたいか、どういう人生を歩みたいか、ということから始まるべきだ。オーストラリアのビクトリア州では「Respectful Relationship(尊重しあえる関係性)」の授業がある。台湾では性暴力を防止する6つの施策のひとつがジェンダー平等教育で小学校1年から繰り返し学ぶという。
日本語に問題も。たとえば痴漢に遭ったとき、英語なら命令形でやめろと言えるのに、日本語では「〜してください」と依頼する言い方になってしまう。日本語のなかの男言葉と女言葉や、育つなかで刷り込まれてきた女の子は怒ってはいけないという規範、言葉を奪われてきた。性教育が学校に根づくには時間がかかるが、地域や家庭でならすぐ取り組むことができる。本やYouTubeなども利用して、子どもたちもわたしたち大人も、学び直す必要がある。
◉被害の声をあげたことへの反響、日本と海外とのちがい
報道の違いはすごく大きかった。日本で初めて会見をしたとき、強姦罪を変えてほしいという動機があったが、顔と名前を出して被害を訴えたことだけに焦点があたっていた。海外ではそのような取り上げ方はされない。イギリスの公共放送BBCのドキュメンタリーには、娘がいる男性や警察からメールをもらった。誹謗中傷は日本語のものがほとんど。
ただ、声をあげることが強要されてはいけない。まずは自分が生きることがいちばん大切。私の場合は、報道の世界で仕事をしたいという夢があり、声をあげること自体がサバイバルでもあったが、心身ともに落ち込む時間もある。理解し、一緒に過ごしてくれる友人たち、支援する会「Open the Black Box」の仲間にも出会い、支えられている。ペットを抱く、辛いものを食べるなどどんな小さなことでも、辛いときに自分を守れる方法を見出して。声をあげたことは決して無駄にならないと信じている。
◉性暴力をなくす若者の取り組み
一人一人得意なことを活かしてできることがたくさんあるはず。台湾では、あるレイプ事件を受けてスキニーデニムのファッションショーをした。アニメーターが同意に関する動画を発信したり、傍観者にならないための介入方法を紹介したり、SNSも活用できる。ユースプロジェクトの「受けたかった性教育アンケート」結果も文科省・内閣府に届ける。
「#もう鈍感じゃすまされない」、鈍感を壊していこう!
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大会宣言
最後に、デートDV防止全国ネットワーク代表理事の中田慶子が、大会宣言を読み上げた。
今年で10年目となったスプリングフォーラム、おおぜいの方の参加で、今年も開催できました。私たちは、デートDVがない社会の実現のためにこのネットワークを作り、日々活動をしています。それは暴力のない社会を実現するための活動です。しかし私たちの日頃の願いを踏みにじるように、ロシアのウクライナ侵攻という事態が起きました。戦争は人類が起こす最大の暴力です。戦争は人の命を奪い、子どもや女性を始めとしたマイノリティーに最も深刻な被害をもたらします。さらに紛争・戦争地帯では性暴力が頻繁に起きることを忘れてはなりません。この最大の暴力に対して私たちは怒り、NOと言い続けなければなりません。また、命を奪われ傷ついたすべての方々、その家族の方々の悲しみをともにしたいと思います。
今年のスプリングフォーラムのテーマは「性暴力とデートDV」でした。性暴力は見知らぬ人からの被害という先入観を持つ人も多いのですが、国の調査でも明らかなように、性暴力は実は親密な関係において最も多く起きています。本日のフォーラムは、この「性暴力とデートDV」というテーマを幅広い視点から考え共有する機会となりました。
各講師からは、同意のない性行為を性犯罪と明確に位置付けることや同意年齢を引き上げることの重要さ、子どもへの性暴力の取材を通じた実態を報告いただき、さらに包括的性教育からデートDV予防教育の可能性について考えることができました。さらに、特別講演として伊藤詩織さんから、国際的な視野から「性的同意」についてお話いただきました。
他にも、若い世代へのアンケート調査から見た若者に必要な性教育の時期や内容について、また、2年続けて行ってきた予防教育の効果測定調査の結果、予防教育によって若い世代の意識が変わることも確認できました。私たちは、新型コロナ感染症の最中ではあっても、今年もオンラインによってこのフォーラムに集い、情報を共有し、それぞれの地域で1人1人が何をしていけばよいのか、どう行動していけばよいのかを学ぶことができました。
これからも、私たちは、予防教育の内容をより良いものにし、全国で誰もが受けられるよう広める努力をしていきます。そして、「暴力への気づき」、「対等な関係の学び」、「ジェンダー平等」を、若い世代が当たり前のこととして受け止めることで、誰もが被害者にも加害者にも傍観者にもならない社会、暴力のない社会の実現へとつながっていくと信じます。
決して簡単なことではないですが、今日、ここに集ってくださった皆さんとともに、これからも努力を続けていきましょう。2022年3月6日
NPO法人デートDV防止全国ネットワーク- ライター:notalone