- 2023.03.22
- 【開催レポート】デートDV防止スプリング・フォーラム2023
10回目となるデートDV防止スプリング・フォーラム2023は、3月12日に東京ウィメンズプラザで開催された。コロナ禍が落ち着きつつある中、4年ぶりのリアルでのイベントが実現した。
今年のテーマは「いまこそデートDV予防教育を」。オンラインでの録画視聴を含め、参加者は125人に上った。午前の部では、内閣府、文部科学省、警察庁からの行政報告に続き、中央大学副学長で商学部教授の武石智香子さんが「DVの社会的コスト」をテーマに講演。終了後は、当団体代表でNPO法人DV防止ながさき理事長の中田慶子と予防教育の必要性について話し合った。
午後は、3つの分科会に分かれて活動報告および情報交換。
最後に、2021年11月から「Abuse is not love」キャンペーンを全世界で展開しているイヴ・サンローラン・ボーテの野山佳世子さんによる特別講演が行われた。
セッションの合間には、近くにいる人たちとの交流タイムや予防教育の効果測定についての報告も盛り込まれ、充実したフォーラムとなった。開会に先立ち、デートDV防止全国ネットワーク代表の中田慶子が、昨年2月に起こったウクライナでの戦争がいまだ続いていることに触れ、「今日の新たな出会いにより、地域での予防教育の実践者が増え、DVや虐待、性暴力といった、暴力のない社会を構築し、平和な世界を実現するための力となることを祈っています」とあいさつした。
目次
- (1)【行政報告】いわゆる「デートDV」防止に関する内閣府の取組|内閣府男女共同参画局長 岡田恵子さん
- (2)【行政報告】文部科学省におけるいわゆる「デートDV」防止に関する取組|文部科学省総合政策局男女共同参画共生社会学習・安全課長
安里賀奈子さん - (3)【行政報告】警察におけるストーカー事案および配偶者暴力事案への対応〜|警察庁生活安全局人身安全・少年課 富永康弘さん
- (4)基調講演「DVの社会的コストについて」|中央大学 副学長・全学連携教育機構長・商学部教授 武石智香子さん
- (5)対談「DVの社会的コストから考える予防教育の必要性について」取組|武石智香子 × 中田慶子(NPO法人 DV防止ながさき理事長)
- (6)デートDV予防教育実施状況調査報告|デートDV防止全国ネットワーク事務局 阿部真紀
- (7)分科会1「学校でのデート予防教育の実践と人材育成」|コーディネーター:長安めぐみ(群馬大学ダイバーシティ推進センター 副センター長)
- (8)分科会2「社会問題として取り組むデートDV予防教育」|コーディネーター:松下清美(認定NPO法人ピッコラーレ理事)
- (9)分科会3「ユースサミット:ユースプロジェクト活動紹介と交流」|コーディネーター:高島菜芭(Genesis共同代表)
- (10)特別講演「イヴ・サンローラン・ボーテ ABUSE IS NOT LOVE」| 講師:野山佳世子(日本ロレアル株式会社ロレアル リュクス事業本部 イヴ・サンローラン・ボーテ事業部カスタマーエンゲージメント&コミュニケーション マネージャー)
- (11)大会宣言
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セッション 1
いわゆる「デートDV」防止に関する内閣府の取組
内閣府男女共同参画局長 岡田恵子さん
行政報告では、最初に内閣府男女共同参画局長の岡田恵子さんが、デートDV防止に関する内閣府の取り組みについて、調査結果も踏まえ報告。(録画ビデオによる報告)
内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(2021年3月公表)では、女性の約6人に1人(20代女性は約4人に1人)、男性の約12人に1人が交際相手からの暴力を経験していた。
無理やりに性交等された被害は女性の約14人に1人。その時期は20歳代が約5割を占め、加害者の大多数は顔見知りの関係だったという。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの相談件数は、2021年度、22年度とも前年度に比べ増加し、22年度上半期は3万2367件。相談者は約7割が20代以下だった。
相談体制の拡充のため、電話では20年10月から全国共通短縮番号「#8891 はやくワン(ストップ)」を開始、22年11月から通話料を無料化。21年10月から夜間休日コールセンターを設置。SNS相談では20年10月から「キュアタイム」を実施。
22年6月には「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022」(女性版骨太の方針2022)を策定し、デートDVへの対応を盛り込んだ。これを踏まえ、12月にはDV対策抜本強化局長会議において、デートDVは「重大な人権侵害」「暴行、障害、監禁等の犯罪に該当」「ストーカー事案として相談支援の対象」という考え方を明らかにした。
また、地方公共団体でのデートDV被害者支援の充実を図るため、12月にストーカー被害者相談マニュアルを改訂。相談事例や聞き取りのポイントなどを新たに記載した。文部科学省とともに、「生命(いのち)の安全教育」の教材・手引きを21年4月に公開。中学校・高校の教材ではデートDVについて取り上げた。
毎年4月の「若年層の性暴力被害予防月間」ではSNSを使用した啓発活動を実施。「女性に対する暴力をなくす運動」(11月12日~25日)では、22年度は「性暴力をなくそう」をテーマに、内閣府特命担当大臣のメッセージ動画を作成して呼びかけたほか、全都道府県でパープルライトアップを実施した。
内閣局のホームページにはデートDVに関するコーナーを設け、防止に向けた情報提供を行う。
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セッション 2
文部科学省におけるいわゆる「デートDV」防止に関する取組
文部科学省総合政策局男女共同参画共生社会学習・安全課長 安里賀奈子さん
文科省では、内閣府と連携して進めている「生命(いのち)の安全教育」について紹介した。
「加害者、被害者、傍観者にならない」をコンセプトに、幼稚園児から大学生まで、すべての年齢層の発達段階に応じて教材を作成。
幼児向けには「みずぎでかくれるところ」などわかりやすい表現を使用している。
小学生からSNSを使う場合の注意点、性暴力は同性間でも起こることを伝える。
中学校・高校向けではデートDVやSNSを通じた被害の実例、困ったときの対応、相談先なども盛り込む。また、保護者向けの資料も用意。
学校の教職員向け指導の手引きでは、対応の際、二次被害を防止するための注意事項も紹介している。2021年度からモデル授業を実施していて、2023年度からは全国でさらに強力に推進する。
教材は科目の枠に縛られず、自由に使用できる。デートDVの予防教育ではぜひこの「生命(いのち)の安全教育」を使ってほしいと述べた。※生命(いのち)の安全教育についてはこちらをご覧ください
https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index.html* * *
セッション 3
警察におけるストーカー事案および配偶者暴力事案への対応
警察庁生活安全局人身安全・少年課 富永康弘さん
全国の警察におけるDV事案の相談件数は、増加傾向が続き2022年には8万4,496件と、DV防止法施行後最多を記録した。
被害者の73.1%は女性だが、男性被害者や、相手方が同性という被害者も増えている。
ストーカー事案の相談件数はこの5年ほど減少してきていて、2022年は1万9131件。被害者の87.4%は女性。(いずれも警察で受理した件数)* * *
セッション 4
基調講演「DVの社会的コストについて」
中央大学 副学長・全学連携教育機構長・商学部教授 武石智香子さん
社会的コスト推計とは何だろうか?DVが社会に与えるダメージを金額に換算しようとする試みは、命や尊厳より経済発展を優先するという考え方に基づいているわけではない。
誰もが健康で尊厳が保てる社会にするために、どのような政策が求められるか。必要なのは証拠に基づく政策(EBPM)。「市民全体が利するような費用対効果を証拠から検証して、民主的に政策を立てよう」という社会からの要請に基づいている。社会的コスト推計の第一の目的は、その甚大な被害を数値で表現すること。第二の目的は、得られた数字を比較、分析するなどして、予防・介入・支援の効果把握につなげること。
主な推計方法には4つある。厳密かつ正確な方法から順に
・ボトムアップ方式…様々なデータを積み上げて算出
・割合方式…総コストのうちDV被害者の人口割合から算出
・統制後増分方式…DV被害者とそうでない人の比較データから算出
・イーサリアル方式…計算式等に数値を当てはめて算出。最も簡便このうち、第一の目的であるDVの影響力の大きさを示すのであれば、イーサリアル方式で十分。日本の場合、DVの社会的コスト推計で用いられている唯一の方法だ。
第二の目的、経年変化や項目の関連性の分析に用いる場合には、最も厳密なボトムアップ方式を使う。ただし、データがそろわないと難しいため、割合方式、統制後増分方式を部分的に活用する。◉DVによる損失額は年間6~10兆円!
イーサリアル方式は、DV防止全国ネットワークで報告した調査で用いられている(調査報告2022「なぜデートDV予防教育が必要なのか」17ページ)。
18か国25件の研究結果から、デートDVの社会的コスト推計はおおむね、GDPの1.2~2%となることがわかった。GDP×1.2~2.0%
この計算式に日本のGDPを当てはめてみると6.6〜10.9兆円。
ちなみに、日本の国家予算はおおよそ100兆円で、今年は114兆円。その10%弱(6~10兆円)に相当する額が、損失となっていることがわかる。
◉経年変化とインパクト評価
経年変化とインパクト評価の関係については、イギリスの例を挙げて説明。2001年の社会的コストは230億ポンド(4.0兆円)。この状況が続くと仮定すると、2008年には263億ポンド(5.1兆円)に増えると見込まれていた。しかし、実際に計算してみると、157億ポンド(3.0兆円)に減少していたという。
実はこの間、イギリスでは行政サービスに予算が投じたことで、DVの発生率が低下していたのだ。しかし、経年変化では、施策の影響は把握できない。時間をかけたデータの整理によって、はじめて効果を把握できるというのが、インパクト評価の難しさでもある。
◉日本のデータを巡る課題
日本のDV調査の長所は、対象を女性に限らずLGBTQも含めている点にある。
しかし、課題は「配偶者からの暴力」に限定しているので、交際相手からの被害の調査が十分行われていないことだ。また、日本の場合対象年齢は20歳以上だが、世界各国では15歳以上なので、年齢を引き下げることも求められる。
◉予防教育は社会の経済活性化のためにも大切
他の課題との関連では、DV以外の問題がどのようにかかわっているのか、個別の実証実験等で得られた結果をもとに考察できる。
例えば、子どものころのいじめ傾向が、その後のデートDV傾向につながるという研究結果もある。
また、企業の研究では、有名なグーグル社の「アリストテレスプロジェクト」がある。
仕事の効率を上げる要因は、心理的安全性つまり非難される不安を感じることなく発言できる環境であることがわかった。心理的安定性を下げる支配的関係性、威圧的行為、態度は組織の効率を下げるのだ。こうした研究結果から、いじめやデートDVの予防教育は、社会の経済活性化のためにも大切であることが示唆されている。
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セッション 5
対談「DVの社会的コストから考える予防教育の必要性について」取組
武石智香子 × 中田慶子(NPO法人 DV防止ながさき理事長)
中田:先程の武石さんの発表を拝見して、DVの社会的コストが年間6兆円以上、日本の国家予算の1割に上るとは、結果の深刻さがわかりました。1つの家族だけみても、長年にわたってケアが必要となります。その場合の医療、警察、裁判、相談、生活保護を含めた生活再建費用など、どのくらい社会的コストがかかるのか気になっていました。また、本人が就労できなかったり、子どもが不登校になったりすると、社会的損失がずっと続くことになるわけです。
武石:DVは加害者にとっても人生の大きな損失となります。加害者の特徴はサイコパス。共感力が欠如しています。
最近の研究で、ダークトライアド(サイコパス、ナルシズム、マキャベリズムの3つを備えたパーソナリティ)がDVに関係することがわかってきました。
また、そういう人がリーダーになると組織や企業にダメージを与えるという研究結果もあります。
なお、子ども時代に面前DVを経験した男性が、サイコパスとマキャベリズム(上昇志向)の傾向が高くなるという研究もあり、面前DVからの負の連鎖がひいては組織効率を下げていくことが考えられます。中田:DVや児童虐待など社会の中で暴力が容認され続けてきた結果、たくさんの被害者が生まれました。ケアや支援に従事する人への待遇が低すぎる現状は、リーダーは人の意見など聞かなくても強い方がいい、という価値観を温存したまま走っていく可能性があると感じました。
私たちも面前DVを受けた子供たちとたくさん接しています。残念ながら、その中には次の世代のDV加害者になる人がいることも感じています。だからこそ、予防教育はもちろん、早期介入、子どもたちへの早期のアプローチ、ケアがとても重要だと改めて感じました。武石:私は、介入支援、予防支援はコスト的にも効果があり、いつか客観的に示せるはずという思いが、研究の大きな動機になっています。被害にあったときはチャンスでもあります。ダークな部分が見えたときでもあるので、見えないものが見えた人たちが結集して、子どもたちと一緒に考えていくことは、今の民主主義、よりよい社会をつくるためにも大事なことだと思います。
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セッション 6
デートDV予防教育実施状況調査報告
デートDV防止全国ネットワーク事務局 阿部真紀
当団体(NPO法人デートDV防止全国ネットワーク)ではデートDV予防教育を普及していくために、様々な調査を行ってきた。2020・2021年度に実施したデートDV予防教育効果測定調査、そして、2022年度に取り組んだのはデートDV予防教育実施状況調査である。
事務局長の阿部真紀より、効果測定調査に用いた社会的インパクト評価の手法の大枠を説明したのち、実施状況調査の結果が報告された。実施状況調査は、2019年度にも実施した。今回は2021年度1年間の実施状況だったため、コロナの影響を受け、前回の実施数よりも若干減少している。
今回の調査では、56団体から協力を得たが、この56団体が2021年度に実施したデートDV予防教育は、1156回。小学生から大学生まで136988人が受講した。
コロナ禍の影響がある中、これだけの実施があったと評価したいというコメントがあった。* * *
セッション 7
分科会1「学校でのデート予防教育の実践と人材育成」
コーディネーター:長安めぐみ(群馬大学ダイバーシティ推進センター 副センター長)
「デートDV」という言葉が生まれて20年(命名者はアウェア代表の山口のり子さん)。地域に根を張り、草の根的な地道な活動をずっと続けてきた6団体が登壇し、活動報告した。
独自に開発したプログラムについての情報交換をしたり、ファシリテーターの人材育成など、予防教育の未来と今後の課題について話し合った。
◉活動報告
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〇アウェアFネット / 副代表 久保洋子
アウェアのデートDV防止プログラムファシリテーター養成講座を修了したメンバーたちが2020年に結成。プログラムの特徴は、ロールプレイング、ワークショップを取り入れた参加型。団体設立前から活動し、教職員研修も行う。2015年には大阪・堺市のすべての小中高で実施。最初は中高の教師が多かったが、今では小学校教師のほうが多い。被害者支援の一環として加害者プログラムもある。
https://aware-fnet.com/ -
〇認定NPO法人エンパワメントかながわ / 理事長 阿部真紀
デートDVという言葉で、自分たち独自の予防プログラムをつくろうと2004年結成。19年間に約9,500回実施。受講者は約35万人。プログラムの特徴は参加型ワークショップ形式。お互いの違いを認めることの大切さ、自分の被害に気付くことで「加害をしたくない」という気持ちを育てることが目標。知的障がいを持った子ども向けのプログラムも作成。中高生向けオンラインワークショップも実施。
https://npo-ek.org/ -
〇認定NPO法人女性と子供支援センターウィメンズネット・こうべ / 副代表 三野敬子
1992年発足。シングルマザーと子どもの居場所事業、居住支援(シェルター)等を実施。母子の話から、交際期間から暴力が続いていることがわかった。2007年から学校でデートDV防止授業を開始。プログラムの特徴は、シェルターにいる子どもたちの気持ちを盛り込んだ点。授業の際、先生から被害者、DV家庭の子の存在を確認。これまで受講した生徒・学生は27万163人(2023年1月末現在)。
https://wn-kobe.or.jp/ -
〇NPO法人女性ネットSaya-Saya / 理事 千野洋見
2000年結成。東京都内で、DV被害女性と子どもの支援を行う。2008年デートDV防止プログラムを実施、これが現在の「チェンジ」(暴力防止ユースプログラム)へと発展した。特徴は、学校に合わせた内容。開催前に2回学校に出向き先生の要望を取り入れる。生徒とともに予防DVDを作成したことも。2021年11月からイヴ・サンローラン・ボーテとコラボ、年間2万人に予防講座を届けることが目標。
https://saya-saya.net/ -
〇NPO法人DV防止ながさき / 理事長 中田慶子
2002年結成。拠点は長崎市。予防教育のニーズが一番高かったのは、離島の学校の先生たち。卒業して地元を離れた生徒が被害に逢い、妊娠して戻るケースが目立ったため。授業の評判は口コミで広がり、2013年県議会で県教育長が「高校3年間の間1度は予防教育を受けさせたい」と答弁し、普及が加速した。現在は年間100校で開催。最新の教材のテキストを3月に発行予定。HPから申し込みを。
https://www.no-dv-nagasaki.net/ -
〇西山さつき(NPO法人レジリエンス代表理事)
2003年結成。当初からデートDV予防に取り組む。授業ではロールプレイング、クイズ、動画、ディスカッション等を取り入れる。DV家庭の子どもが含まれるという前提で話し、「親のDVはあなたのせいではない」と訴える。加害生徒向けに、暴力はなぜいけないか、暴力を使わない生き方を伝える。自分自身被害体験があり、活動がセルフケアに役立っていると感じる。
https://sites.google.com/view/nporesilience/top
◉人材育成と今後の課題~予防教育は税金で!
6団体とも養成講座を実施。しかし、「受講修了者が予防教育を実践するのは難しい」という声が多かった。理由は財政難。「大事な活動であるが手弁当でやってきた。学び続けるにはお金が必要」「若い人が興味をもつためにも、活動で生計が立てられるようにする仕組みが必要」という意見も。
現状では、多くの団体が自治体からの補助金、民間団体からの助成金を受けて活動している。当然地域差が生じる。午前中の講演で、DVによる社会的コストが国家予算の1割に上るという結果を受け、皆「やはり国として予算を付けてほしい」「デートDV予防も税金でやることが大事」「制度の中に予防教育を位置付けることが必要」という意見で一致した。
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セッション 8
分科会2「社会問題として取り組むデートDV予防教育」
コーディネーター:松下清美(認定NPO法人ピッコラーレ理事)
家庭でも学校でもないサードプレイスとしての居場所運営、研修会、情報発信を行っている4団体が実践報告をするとともに、共通の課題を語り合った。
子どもや若者たちの相談に対してどのように対応しているのか。社会教育としてのデートDV予防教育の可能性を探る。◉活動報告
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〇公益社団法人ガールスカウト日本連盟 / SDG5委員会 篠田佳奈・木村侑加
世界152か国と地域で約1000万人が活動する社会教育団体。就学1年前から18歳までの少女が活動。18歳以上は指導者としてかかわる。2011年からStop the
Violence(STV)キャンペーンを開始。2012年からデートDVに焦点を当てて取り組む。ジェンダー平等を目指して、年代ごとのプログラムを実施。中高生と保護者を対象にしたオンラインプログラム「me and them」を展開中。インスタでデートDVについて情報発信も行う。
https://www.girlscout.or.jp/meandthem/ -
〇NPO法人ピルコン / 事務局 平野智子
2007年活動開始、13年NPO法人。性の健康と権利について、中学・高校での講演、オンラインイベント、政策提言などを行う。デートDVについては包括的性教育の一部として実施。学生、若い社会人が経験談を交えながら話すため、生徒の反応はよい。「自分も被害を受けていた。知ってよかった」という声も。SNS、YouTubeを積極的に活用。インスタフォロワー数3400人。2021年からTikTok開始。教師向けに教材の提供も行っている。
https://pilcon.org/ -
〇認定NPO法人ピッコラーレ / 副代表 土屋麻由美
2018年設立。前身はにんしんSOS東京。妊娠や妊婦への相談・支援のほか、中高生の地域での居場所事業を展開。学校や家庭以外の場所で、安心して性の話ができる場所として、2021年豊島区内で出張「ピコの保健室」を開始。お菓子を食べたりしながら、ピルやコンドームなどについて学ぶ。男子も口コミで集まる。ボランティアの大学生も子どもたちにかかわるうちに気付いた自身の体験を話す場にもなっている。
https://piccolare.org/ -
〇一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン / 今村光一郎
暴力を「振るわない」「許さない」「沈黙しない」をモットーに2016年設立。1991年にカナダで始まり、50か国で展開されている性に対する暴力撲滅を目指した「ホワイトリボンキャンペーン」を男性主体で展開。デートDVについて、身体的暴力に限らないこと、男性も被害に遭うこと、思い込み(「そんな服を着ているから被害に遭う」「モテるから仕方ない」など)や無関心が二次被害を生むことなどの情報を伝える。男らしさが暴力に向かわないためのアクションを実践中。
https://wrcj.jp/
◉学校でも家庭でもない、「斜め」の関係で接する
それぞれ、親とも学校の先生とも違う、年齢の近いお兄さん、お姉さんとして接している。大事にしていることは、「子どもたちが理解しやすい言葉で伝える」「あなたが加害者になる可能性もあることを伝える」「説教せず、一緒に悩んで考えるようにする」など。
先生も保護者も自身の体験談を話しづらいため、「斜め」の関係も大切であることも示唆された。会場からは「予防教育では学校が大事。
しかし、学校では正しい答えが必要とされてしまう。しかし、外部であれば、正しい理論を展開しなくても介入できる。それが強み」という意見が出た。
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セッション 9
分科会3「ユースサミット:ユースプロジェクト活動紹介と交流」
コーディネーター:高島菜芭(Genesis 共同代表)
デートDV予防、性的同意、ジェンダー平等などをテーマに活動しているユース世代が集まり、各団体からの活動紹介の後、4つのグループにわかれてディスカッションを行った。
◉活動報告
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〇早稲田大学性的同意ハンドブックチーム
早大生に向け、身近な問題としてとらえてもらおうと、作成メンバーが実際に経験したことを盛り込み、学内の相談機関を紹介。英語版も作成。出張授業も展開。
https://shaberuwaseda.wixsite.com/shaberu-waseda
https://site-7218760-1366-3570.mystrikingly.com/ -
〇青山学院大学国際政治経済学部国際経済学科内田ゼミ
生活の中で感じる疑問が社会とどう関わり、社会の問題が自分とどう関わるか調査する。デートDVをテーマに選ぶ。原因は、お互いが恋愛、性的同意についての価値観を共有する機会がないことと仮定。調査の結果、お互いの違いを認め合うことが未然防止につながることがわかった。
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〇吹田市男女共同参画推進員(ユースリーダー)
小中高大へと出前授業を実施。2012年スタート。最初は2校から始まったが、今では中学校では欠かせない授業になった。子どもにとってDVという言葉は当たり前ではないので、その語を用いずに説明することを心がけている。
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〇Genesis
関西の大学生が中心になり、京都市の男女共同参画推進協会で性的同意ハンドブックを作成したことがきっかけで誕生。性的同意に関するワークショップも開催、これまで3000人以上が参加。
https://twitter.com/genesis_for_all
https://www.wings-kyoto.jp/association/publications/post.html -
〇デートDV防止全国ネットワークユースプロジェクト
学生と若手社会人で構成。SNSを使って性教育や性的同意についてアンケートを実施。インスタグラムに開設した「2人の保健室」は好評。人気第1位はパートナーとの関係性チェックリスト。
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〇エンパワメントかながわ青年部
2021年誕生、メンバーは30人を超える。活動は、学校でのワークショップへの参加、ワークショップの開発、デートDV110番相談員、SNSでの情報発信。ワークショップ開発はゼロからつくりあげ、2022年度は性教育、LGBTQ、デートDVを取り入れた。
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◉悩みを共有、打開策を若い世代で話し合う
グループディスカッションでは、集客方法、SNSの使い方、資金・人材不足などの運営、広報についてのほか、「DVをテーマに活動していると、周囲から意識高い系とみられて理解してもらえない」「メディアではユースが取り組んでいることだけが注目されてしまう」などの悩みが出された。
それらの悩みに対して、「もう一つ別の活動をして、そこで仲良くなった人にデートDVの話をしてみる」「人間は感情では動かない。まず自分を好きになってもらう」などの解決策が提案された。
ユースという点だけが注目されることについては「肝心のデートDVの問題をもっと知らせる必要がある」「もやもやするが、若いということで興味関心を持ってくれるならありがたい」という意見、アドバイスが寄せられた。
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セッション 10
特別講演「イヴ・サンローラン・ボーテ ABUSE IS NOT LOVE」
講師:野山佳世子(日本ロレアル株式会社 ロレアル リュクス事業本部 イヴ・サンローラン・ボーテ事業部カスタマーエンゲージメント&コミュニケーション マネージャー)
イヴ・サンローラン・ボーテでは、社会貢献活動として、2020年から「ABUSE IS NOT LOVE」(それは愛ではない)をキャッチフレーズに、デートDV予防教育を展開中。恋愛関係における親しいパートナーからの様々な9つのサインの認知と啓発を広めている。
日本では2021年11月から、NPO法人女性ネットSaya-Sayaとパートナーシップを組み、年間2万人に予防教育を提供することを目標に活動している。
16歳から24歳までの若い世代に理解しやすいように、IPV(Intimate Partner Violence:パートナー間暴力のこと)をABUSEという言葉で表現。
若者たちが知識や経験がないためにデートDVの被害者や加害者になることなく、自分と相手を大切に尊重しあえる関係をつくることをサポートする。2021年11月、立ち上げのメディアイベントでは、若い人に人気のある元King&Princeの歌手・岩橋玄樹をスペシャルゲストに招き、活動を公表。
2022年11月の2回目のイベントでは、ブランドのジャパンアンバサダーであるローラのトークショーと、デートDV防止セミナーを開催。この模様は850万人のインスタフォロワーを持つローラのインスタでも紹介された。2022年は、チェンジプログラムを84か所の中学、高校、大学などで行った。コロナ禍という制限がありながらも、1万4,085人への啓発活動を実施。受講者からは「とても身近な問題。もっと敏感にならなければいけないと認識した」「世界的なブランドが取り組んでいることで重要さがわかり、興味を持つきっかけになった」「この取り組みを理解することで周りの人と助け合うことができると思った」など、前向きの声が多かった。
こうした活動が評価され、2022年ファッション雑誌ELLEによる「エル クリーンビューティアワード」におけるクリーンアクション部門を受賞した。
2023年も2万人への啓発活動が目標。男性を含む、あらゆるジェンダーに向けての理解を深め、よりよい社会になるために継続して強化していく。
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セッション 11
大会宣言
最後は、当団体の理事である阿部真紀が、以下の大会宣言をしてフォーラムを締めくくりました。
2013年に始めたデートDV防止スプリング・フォーラムは、本日10回目を開催することができました。今年は、デートDVという言葉が生まれてちょうど20年目の節目の年にあたります。私たちは、このデートDVという言葉を使って、子どもたちに予防教育を届けることで、デートDVのない社会、ひいては、DVや虐待の連鎖がおきない、暴力のない、安心で安全な社会を目指して、日々活動しています。
今年のスプリング・フォーラムのテーマは、「いまこそ、デートDVの予防教育を」です。午前中は、武石知香子さんから日本で初めてとなる「DVの社会的コスト」に関する研究についてご報告いただき、予防教育の必要性について考えました。午後は3つの分科会に分かれて、学校での予防教育の実践と人材育成について、地域での社会教育の可能性について、そして、全国のユースプロジェクトの活動を報告し、学びあい、交流しあうことができました。さらに、特別講演としてイヴ・サンローラン・ボーテより、グローバルな活動について紹介いただきました。
デートDVという言葉が生まれて20年経った今も、まだまだその言葉が十分浸透しているとは言えません。しかし、これまで多くの人が声をあげ、国へ働きかけてきたことで、「生命の安全教育」の中にもデートDVという言葉が入るようになり、また、今年、性暴力に対する刑法やDV防止法も改正されつつあります。
本日、私たちは、スプリング・フォーラムを4年ぶりに対面開催することができ、互いに顔をあわせ、情報を共有しあい、その思いや絆を確かめ合うことができました。
今後は、この絆を深め、そして広げていくことによって、暴力のない社会の実現に繋がっていくことを信じます。これからも、繋がりあい、力を合わせていきましょう。
2023年3月12日
デートDV防止スプリング・フォーラム2023- ライター:notalone