- 2024.06.13
- 【レポート】院内勉強会開催しました
2024年6月6日、衆議院第一議員会館第5会議室にて、NPO法人デートDV防止全国ネットワーク(以下、全国ネット)が企画する院内勉強会「DVの社会的コストと予防教育の効果~すべての子どもたちにデートDV防止教育を~」が開催された。
会場には衆議院本会議を終え駆けつけた国会議員4人を含む総勢30人の参加者が集まった。
当団体が企画する院内勉強会は2020年に続き2回目となるが、今回は、「DVの社会的コスト」の推計について説明し、そのコストを削減するためにも「デートDV予防教育」をすべての子どもたちに届けることが重要であることを伝えた。
「デートDVの実態と予防教育の必要性」中田慶子(NPO法人DV防止ながさき理事長)
会の冒頭に挨拶した全国ネット代表理事の中田慶子(DV防止ながさき理事長)は、長崎県内での被害者支援の中で、多くの被害が交際中から起きていることを知り、相手からの行為がDVだと早く気づくことの重要性を感じて、予防教育に取り組み始めたと語った。
デートDVの実態については、令和5年度内閣府の男女間暴力調査では、交際相手からの暴力は、18%(女性22・7%、男性12%)が経験。うち女性の23・3%、男性の7・2%が「命の危険を感じた」と回答し、被害を受けた人の39・1%は、どこにも相談していないことを指摘した。さらに、一年前に横浜市鶴見区で起きた18歳の大学生が交際相手から殺害された事件は記憶に新しいが、殺害に至らないまでも日常的に多くの被害が起きていると、予防教育の必要性を訴えた。
「DVの社会的コストについて」武石智香子(中央大学商学部教授)
中央大学武石教授から「DVの社会的コスト」についての講演があった。
社会的コスト推計について 「コスト推計とは、社会問題により発生するコストを 金額に換算した「経済的損失」として可視化することによりその影響を把握する試み」であること、推計の方法としては、主に2つあり、データを基に積み上げ方式で算出するボトムアップ方式、それを割合として他国に当てはめるイーサリアル方式があることが説明された。
EUが試みたIPV(=DV)とGBV(ジェンダーに基づく暴力) の社会的コストの推計を、人口比で日本に当てはめると約8兆円になる。また、実質GDPからの割合から試算すると、6.7~11.2兆円になることが報告された。
推計に含まれるものとして、直接的コストとしては、医療コスト、司法コスト、社会福祉コストなどが含まれ、間接的コストとしては、生産性低下分、苦痛、QOL低下分などが含まれると説明された。しかし、メンタルヘルス低下による雇用への影響や子どもへの⾧期的影響などは推計に含まれておらず、特に、次世代・地域社会への影響といった⾧期的な波及効果は含まれていないことは、これだけの推計値だとしても過小評価となっていることが指摘された。
まとめとして、DVのもたらす社会的コストは慎重に見積もっても甚大であること、現状を可視化することが教育による防止策や支援サービス、法的保護など施策を考えるために重要であると訴えた。
「デートDV予防教育の効果測定調査報告」阿部真紀(認定NPO法人エンパワメントかながわ理事長)
続いて全国ネット事務局長の阿部真紀(認定NPO法人エンパワメントかながわ理事長)が全国ネットがこれまでに行った調査について報告した。
2020年から2年間かけて実施した「予防教育の効果測定調査」では、暴力の認知、暴力の非許容、ジェンダー観の3つの尺度において、予防教育の事前・事後を比較し、どれも効果が認められた。中でも、暴力の認知についての効果が一番大きかった。それはつまり、「殴る・蹴る」といった身体的暴力だけではなく、行動の制限や精神的暴力が暴力になると気づくことが暴力を予防することに繋がると説明した。
また、全国での予防教育の実施状況調査を行ったことで見えてきたことは、地域差であること。例えば、長崎県では、中学生人口の18%、高校生人口の25%が受講しているが、神奈川県では中学生人口の1%、高校生人口の1.5%しか受講できていない現状が浮かび上がってきたと説明した。
子どもたちがどこに住んでいても同じ機会を受けることができるために、国としての施策が必要であるとして、台湾の例が提示された。台湾では、いわゆるDV防止法、ジェンダー平等法、性暴力防止法の3つが、小学校から高校まで毎年、合計20時間の予防教育を受けるよう義務付けられていることを紹介し、日本の子どもたちに予防教育を届けられる体制を作ることを求めた。
続いて、NPO法人ピルコン理事長の染矢明日香から「生命の安全教育の現状と課題」についての講演があった。
「生命の安全教育の現状と課題」染矢明日香 (NPO法人ピルコン理事長)
生命(いのち)の安全教育とは、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目的に、全国の学校で政府が推進。文部科学省が内閣府・有識者と連携し、教材や指導の手引きを作成したもの。幼児期、小学校 低・中学年/特別支援学級、中学校、高校、高校卒業直前~大学生・一般向けと発達段階に応じた教材が作成されている。中でも、中学生・高校生向け教材には、性暴力の例としてデートDVを取り上げられている。令和5年度より3年間、「集中強化年間」が始まっているところだが、各教育委員会で取組のばらつきがあることが指摘された。
一方、世界規模では、包括的性教育として、性を生殖・性交のことだけでなく、人権・ジェンダー平等を基盤に人間関係を含む幅広い内容をカリキュラムに基づき体系的に学ぶことが重視されるようになってきている。ユネスコは「包括的性教育の効果に関する科学的な根拠は明らかです。ジェンダーと権力の問題に明確に注意を払う場合、予期せぬ妊娠と性感染症の予防に成功する可能性が 5 倍高くなる」というエビデンスも発表している。
これらを踏まえ、生命の安全教育を国内外の知見を基に、同意・性的同意や人権・ジェンダー平等を基盤とするより充実した内容にすること、どの地域に住んでいても、全ての子どもたちが学べるよう、デートDV予防教育を含めた位置づけ・制度化行うこと、各校の自主性に任せた取り組みだけではなく、地域の実績のある市民団体・人材と連携した取り組みの推進を行うこと、デートDV予防教育の実施状況や効果測定の調査を実施し、科学的根拠に基づく確実な教育政策を行うことを訴えた。
生命(いのち)の安全教育とは、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目的に、全国の学校で政府が推進。文部科学省が内閣府・有識者と連携し、教材や指導の手引きを作成したもの。幼児期、小学校 低・中学年/特別支援学級、中学校、高校、高校卒業直前~大学生・一般向けと発達段階に応じた教材が作成されている。中でも、中学生・高校生向け教材には、性暴力の例としてデートDVを取り上げられている。令和5年度より3年間、「集中強化年間」が始まっているところだが、各教育委員会で取組のばらつきがあることが指摘された。
一方、世界規模では、包括的性教育として、性を生殖・性交のことだけでなく、人権・ジェンダー平等を基盤に人間関係を含む幅広い内容をカリキュラムに基づき体系的に学ぶことが重視されるようになってきている。ユネスコは「包括的性教育の効果に関する科学的な根拠は明らかだ。ジェンダーと権力の問題に明確に注意を払う場合、予期せぬ妊娠と性感染症の予防に成功する可能性が 5 倍高くなる」というエビデンスも発表している。
これらを踏まえ、生命の安全教育を国内外の知見を基に、同意・性的同意や人権・ジェンダー平等を基盤とするより充実した内容にすること、どの地域に住んでいても、全ての子どもたちが学べるよう、デートDV予防教育を含めた位置づけ・制度化行うこと、各校の自主性に任せた取り組みだけではなく、地域の実績のある市民団体・人材と連携した取り組みの推進を行うこと、デートDV予防教育の実施状況や効果測定の調査を実施し、科学的根拠に基づく確実な教育政策を行うことを訴えた。
「家庭法改正後、求められる予防教育について」斉藤秀樹(弁護士)
同じく全国ネットの理事で弁護士の斉藤秀樹は、家庭法改正が決議された今、今後政治の中で検討すべきこととして、次の3つを提案した。
- 支援団体への経済的援助の拡大について、特に面会交流支援は、ボランティア精神で支えられている状況があり、支援体制の拡充と質の確保が必要である。
- 養育費の立て替え払いには、明石市の成功例もあるが、回収できないと自治体の負担となるため、国税徴収法に基づく強制徴収が必要ではないかと提案された。
- DV予防教育 何よりも義務教育の期間中に、外部講師が主体となった予防教育は、効果も実証され、社会保障費の節減につながるのだから、ぜひ進めてほしいと訴えた。
NPO法人デートDV防止全国ネットワークがお願いしたいこと
・DV予防教育の実施は、地域により、自治体の方針、民間団体の有無などによって大きな差があります。どの自治体に住んでいても、若い世代が予防教育を受けられるように、制度化する必要があります。
・予防教育の充実により、場合によっては殺人事件にまで至る深刻なデートDV被害、DV被害を防止し、それは即子ども虐待防止、暴力、貧困の次世代への伝播を防ぐことになります。
・暴力は、個人の深刻なダメージを与えるというだけでなく、社会的コストが膨大という意味でも深刻な課題です。費用対効果を考えても、予防教育の充実が急務です。
・生命の安全教育が推進されていることは大きな前進ですが、実施状況は現場の自主性に任され、担い手不足は明らかです。各地で実績ある人材の活用を望みます。
・デートDVの実態調査を当事者世代に対し全国規模で実施することで、実態を明らかにしてください。内閣府が現在実施している「男女間における暴力に関する調査」では、全年代対象の調査となっているため、交際相手の暴力の現状把握に必要な若い世代の実情が把握できません。当団体は全国規模での調査に協力も可能です。
・各自治体で予防教育を推進できるよう、啓発・教育の予算確保が必要です。
発言した議員(衆議院)
<報告>
NPO法人デートDV防止全国ネットワーク
メール:ddvbousinet@yahoo.co.jp- ライター:notalone