- 2019.03.15
- デートDV防止スプリング・フォーラム2019 レポート
2019年3月3日(日)、東京都港区赤坂の日本財団ビルで「デートDV防止スプリング・フォーラム2019」が開催されました。
2013年からはじまった、このスプリング・フォーラムは、恋人間での暴力「デートDV」の啓発と支援団体の情報共有が目的のフォーラムです。本稿では、今回で7回目となる本イベントの模様をレポートします!行政の取り組みと現状の報告
NPO法人デートDV防止全国ネットワーク代表理事の山口のり子氏の挨拶に始まった午前の部。まずは、内閣府男女共参画局推進課暴力対策室長・杉田和暁氏、警察庁生活安全局生活安全企画課 課長補佐・坂本幸治氏によるDV対策やDV被害対応に関する内閣府と警察庁それぞれの現状や取り組みの報告が報告されました。
警察庁の調べでは、DV認知件数は年々増加しており、2017年の認知件数は72,455件、10年前の2007年と比べて約3倍まで増加したのだそう。
内閣府では、恋人間の暴力であるデートDVに強い危機感を持っており、「女性に対する暴力に関する専門調査会」を設置して、関連法の施行状況等について調査を行い、状況把握や課題の整理を行なっているのだそうです。続いて、沖縄で若年層の出産や風俗業界で働く女性の調査を行う上間陽子氏の講演が行われました。
沖縄の風俗業界で働く女の子たちが経験した苛烈な暴力
琉球大学教授の上間陽子氏は、沖縄の風俗業界で働く未成年の女の子たちや、若年で出産した女性の調査を行なってきました。女の子たちへのインタビューは、2017年に書籍にまとめられ、「裸足で逃げる」というタイトルで出版されています。
上間氏は、2019年1月に千葉県野田市で小4女子が父親からの暴力により虐待死した事件の発端は沖縄県糸満市であったと言います。
この家族が沖縄県糸満市に在住していた時から家庭内暴力がはじまっていたことに触れ、糸満在住時に母親がなんども被害を訴えていたにも関わらず、事件を防げなかったのは、沖縄には暴力への感度の弱さがあるからだ、と指摘しています。また、沖縄の暴力被害全般について、「こんなにも殴るのか」というほど、苛烈な暴力が見られると報告し、暴力を受けた女性たちは、自尊感情を圧倒的に破壊されていると訴えました。
実際に、沖縄の女の子たちの話を聞くと、不眠の訴えや過度な喫煙、不特定多数との交際の話がでてくることが多いそうです。
こうした子の多くは、早いと中学時代からキャバクラやピンサロなどの就労体験があり、その背景にはDVやネグレクト、摂食障害やレイプなどの経験があり…。さらに、実は幼少期に性暴力を受けていたケースが多いことが、実際の聞き込み調査などの結果、わかってきたといいます。書籍「裸足で逃げる」では、風俗業界で働く女の子たちが経験した交際相手や兄弟からの暴力、その中で生き延びてきた彼女たちの素晴らしい力を、一人ひとりの詳細なインタビューを通じて知ることができます。
若年世代が考える、デートDVとの向き合い方
午後の部は、2つの分科会に分かれて行われました。
分科会1では、『メール相談から見える妊娠に悩む10代との関わり方』をテーマに、群馬大学男女共同参画推進室の長安めぐみ氏、一般社団法人にんしんSOS東京の松下清美氏による議論が行われました。
分科会2では、『若者の恋愛・性のモヤモヤを考えよう!』をテーマに、NPO法人ピルコン理事長の染矢明日香氏がモデーレーターを務め、株式会社AMF代表取締役社長の椎木里佳氏、一般社団法人fair代表の松岡宗嗣氏、シンガソングライターでデートDV啓発webサイト『ナタロン』の発起人でもあるyounA氏によるパネルディスカッションが行われました。
以下、私が参加した分科会2のレポートです。当事者意識のないデートDV。どうやって専門機関につなげるか?
デートDVをテーマとした楽曲『あなたのままで』をつくったシンガーソングライターのyounA氏は、自身もデートDVの被害にあったことを述べ、「デートDVは身近な問題。悪気なく、心配だからという動機が加害に結びつくこともある。問題の渦中にいるとわからない。」と語り、デートDVは本人が当事者意識を持ちにくいということを指摘しました。
これについて松岡氏は、「知り合いや家族の話を聞いて『それってデートDVなんじゃない?』と一緒に考えて、相談窓口や専門機関につないであげられるゲートキーパー的な役割の人を養成することも大切」と言います。
いきなり専門家へ相談するのはハードルが高いですが、身近な人がゲートキーパーの役割を果たすことで、公的な窓口へつながることも期待されます。デートDV啓発には、TwitterやInstagramなどSNSの活用が不可欠。
染矢氏が理事長をつとめるピルコンでは、「妊娠かも相談LINEボット」を設け、LINEのトーク上に自動応答で相談に乗るシステムをつくりました。今や、若者世代を対象とした支援やその情報発信に、SNSの活用は欠かせないものとなっています。
自身もデジタルネイティブ世代であり、普段から中高生と交流している椎木氏の主な情報収集源は、Twitterやインスタグラムだといいます。
椎木氏は、啓発のためには、ホームページをつくるだけでなく、こうした若者向けのメディアにどんどん情報を発信してく必要があると訴えました。LGBTQ当事者が抱える、相談の難しさ
また、オープンリーゲイでもある松岡氏は、LGBTQの人たちの間でもデートDVは存在するものの、自分のセクシュアリティを開示していない場合は誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまうケースが多いと指摘しています。
こうしたケースでは、アライ(LGBTQに賛同する人たちのこと)を示すバッジやシールなどで意思表明を行うことも大切だといいます。
すでに、「カウンセラーの資格をもっている=相談してOK」というサインをピンクのネームタグで示す取り組みも行われているそうです。様々なバックグラウンドを持つパネラーから、それぞれの立場を生かした意見が述べらたこの分科会。
デートDVの渦中にいる当事者は、被害者も加害者もその自覚がないことがほとんどです。また、周囲の人が、「それはデートDVだ」と伝えたとしても、自分で認めることができない人もいるでしょう。
様々な事例とともに情報発信や啓発を行うことは、もちろん大切ですが、男女間を問わず、他者との関係性や自分を大切にすることについて考える機会も必要です。対等な人間関係を築くための教育が必要
最後に、NPO法人デートDV防止全国ネットワーク代表理事の山口氏より、閉会の挨拶が述べられました。
山口氏は、私たちの社会は、DVにつながるジェンダー不平等の文化、慣習、価値観などを無意識に内包しており、それを目の当たりにして育つ子どもたちに必要なのは、対等な人間関係を築くための予防教育である、と述べました。そして、まず大人が学ばなければならない、諦めずに進んでいきたいと訴えました。
- ライター:チャリツモ