今回は、3月3日(日)に開催される『デートDV防止スプリング・フォーラム2019』に登壇されるNPO法人ピルコン代表の染矢さんにインタビューをしてきました。
避妊に関する啓発活動として、中高生向けのワークショップなどを行うピルコンの、詳しい活動内容や、団体設立の経緯、そしてスプリングフォーラムでお話する内容をお聞きしました。
染矢 明日香
(そめや あすか)
NPO法人ピルコン理事長。
石川県金沢市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。
自身の経験から日本の思いがけない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、慶應義塾大学在学中より「避妊啓発団体ピルコン」を立ち上げる。
若者向けのセクシャルヘルスセミナーや、イベントの企画・出展の他、中高生向け、保護者向けの性教育講演や性教育コンテンツの開発・普及を行う。大学生ボランティアを中心に身近な目線で性の健康を伝えるLILYプログラムをのべ200回以上、2万名以上の中高生に届け、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。
医療従事者の監修のもと製作、無料動画サイトに投稿した「
パンツを脱ぐ前に知っておきたいコンドームの付け方」動画は2012年10月のアップ以来、約200万回再生され、NHKや朝日新聞、日経新聞などのメディアにも数多く出演・掲載。
WYSH PROJECT指導者養成講座、日本家族計画協会ピア・コーディネーター養成講座など修了。“人間と性”教育研究協議会東京サークル研究局長。
著書に『
マンガでわかるオトコの子の「性 」』(監修:村瀬幸浩、マンガ:みすこそ、合同出版)
Blog:ピルコン染矢明日香のLOVE&LIFEの大事なコト。
twitter:asukasuca
ピルコンWEBサイト(http://pilcon.org/)
ピルコンが届ける、“寄り添う”性教育
NPO法人ピルコンでは、主に中高生向けの性に関する出張講座を行っています。専門家が知識を教えるスタイルではなく、仲間から仲間に伝える「ピア・エデュケ-ション」というモデルを採用しており、講義をするのはピルコンの研修を受けた大学生や社会人です。
プログラムは産婦人科医や医療従事者に監修いただきながら作っており、これまでに延べ2万人の中高生にプログラムを届けてきました。
他人事ではない。実体験から始まった活動
ピルコンは、学生団体としてスタートしました。まずは自分の大学の教室を借りて、大学生向けのイベントを開催するところから始まり、その後、他の学校での出張ワークショップをするようになったのです。
実は、この活動を始める1年前に、私自身が思いがけない妊娠をしたんです。
悩んだ末に、中絶という選択をしました。
当時の自分を思い返すと、避妊の知識も不十分で、誤解していたことも多かった。安全・危険日があって、安全日・生理中だったら妊娠しないとか、腟外射精で避妊ができるとか。
また、パートナーとも避妊をどうするか、といったことをちゃんと話さないまま性行為をしていました。なので、妊娠がわかったときは、すごく驚きました。
まず、「私、妊娠する体だったんだ」というのが正直な思いでした。
それまで生理不順だったし、何度か少し危ない性行為をしたことがあって、そのとき妊娠しなかったから、今回も大丈夫と思っていたんです。
「思いがけない妊娠」というものは、ドラマの中のような遠い世界の話。ヤンキーの人の話。そんな偏見もあったので「まさか自分が」というショックが大きかったです。
当時大学生だった私は、これから就職活動という時期でした。
受験勉強を頑張って進学し、バリバリ新卒で働くつもりで、これからどんな仕事に就こうか考えていたので、妊娠・出産したら、自分のキャリアがどうなってしまうだろう・・・というものすごい不安に襲われました。
この妊娠をなかったことにしたい、という思いが強く、中絶を選択したものの、自分の選択が良かったのか、自分の中で葛藤がありました。
そんな中、大学の授業の一環で、「自分の感じる社会問題を解決するための市民活動をする」というテーマがありました。
自分の経験から、避妊や中絶のことを調べてみたら、当時日本での中絶件数が年間30万件あることがわかり、衝撃を受けたんです。
あんなに自分が辛い思いをした中絶が、こんなにもたくさん行われている。それにも関わらず、自分たちは性のことを学ばないで大人になってしまった。
私自身も、その時初めて低用量ピル(※1)のことを知りました。はじめは自分のために勉強していったことが、その後の活動に繋がっていったのです。
中絶をしたときは、「これで子どもが一生産めない体になったとしても、妊娠をした自分が悪いんだ」という気持ちがあったのですが、今では流産の手術も全く同じ方法が使われいると知り、それは社会から背負わされたスティグマ(※2)の要素が大きいと思っています。
避妊や中絶は、とてもプライベートなことですが、社会問題として向き合うことも大切です。立場が弱くきちんとした知識を得られなかった、もしくは避妊が実行できなかった人々を、責めたり、無かったことにするのではなく、どうやってケアしていけばいいか、議論することも必要だと感じます。
日本の中絶数は、昔に比べて減ってきています。それでも年間約16万件は発生していて、その数は年間出生数の6分の1にも及びます。
もちろん中絶も、選択肢として尊重されるべきですが、本人や医療現場のスタッフが多大な心理的負担を感じているという声を聞いてきました。
WHOは、中絶をより安全に行えるように、金属製のスプーンのような器具でかきだす従来の掻爬(そうは)術ではなく、子宮を傷つける恐れが小さい真空吸引法、または薬剤による中絶に切り替えるべきと提言しています。
日本では多くの国で既に使われている手動による真空吸引法が2015年にようやく認可されましたが、いまだ中絶薬は認可されていません。
アフターピル(緊急避妊薬)も高額で産婦人科・婦人科を受診しなければ処方されず、入手のハードルが高い状況にあり、薬局で薬剤師を通して買えるように求めるオンライン署名キャンペーンを呼びかけています。
妊娠が女性の人生に及ぼす影響が大きい中で、避妊や中絶について、まずはきちんと情報を得られること、そして、その後の人生や健康への負担ができるだけ少ない選択肢が選べることが大切だと感じています。
ピア・エデュケーションだから伝えられること
ピルコンの活動では、ピア・エデュケーションというスタイルで講義を行っており、医療従事者などの専門家から伝えるスタイルではありません。そのため、学校現場では教員の方からの信頼性が低いな、と感じることもあります。
ただ、ピア・エデュケーションだからこそ伝えられることがあります。
私たちが重要視していることは、単に知識を伝えるだけでなく、「自分の生活に置き換えた時、どういう選択ができるだろう」と考えたり、「私はこういう経験がある」と共有したりすることはピア・エデュケーションだからこそできることです。
性教育に関しては、実際に自分が性について困難を抱えそうな場面に直面したとき、必ず一つの正しい答えがある、というわけではないのです。
自分だったらどう行動するだろう?と考え、いろいろな価値観が存在することを知るというのが大切です。
実は、健康や教育、予防という意味での性教育は、日本ではしっかりと確立されていない分野です。
文部科学省が学習指導要領の中で定めてはいるものの、性に関する正しい知識が若者に定着しているとはいえない状況なのです。
性教育のやり方として何がよいのか、ということは専門家でも意見が分かれることもあり、教育現場で課題意識を持つ先生たちも手探り状態です。
ピルコンでは、できるだけ国際スタンダートや海外の事例を参考にしながら、実際の教育現場での生徒の反応を見ながら伝え方を日々研究しています。
学校での性教育の現状
ピルコンに講演のご依頼をくださる方の多くは、こうしたピア・エデュケーションの価値を理解してくださっている、想いを持った保健師の先生や養護教諭の方です。
しかし、学校によって意識はばらばらです。
ひとりの先生の意欲によって左右されてしまう側面もありますし、東京都では過去に性教育の取り組み方に関するバッシングもあったので、問題になることはやめておこう、と慎重になる風潮も感じます。
養護教諭や学年主任の先生が依頼してくれたとしても、管理職の理解が得られず実施できなかったこともあります。また、学校の先生自体が忙しすぎて、なかなか性教育に時間をかけることができない、という実態もあります。
海外では、義務教育から段階的にカリキュラム化され、多くの時間をとって性教育を伝えている国や地域が多いのですが、日本の場合は、たとえば中学校では保健体育の時間を中心に、平均で年間3時間ほどしか触れられていないという調査もあります。
私たちの講座を聞いた先生方からも「知らないことが多かった」と反応があります。
もう一つ特筆すべきは、日本では性的同意年齢(※3)が13歳と非常に低いということです。これは遊女の水揚げ年齢を元に設定されていて、明治時代から変わっていません。
それなのに、学校で性教育に触れる機会は十分にありません。性交にかかわる内容について、義務教育段階である小・中学校の集団指導で取り上げることは、ふさわしくないとされています。
また、若くして性行為をした子供たちに向けられる視線は、非行であったり、ふしだらだ、といったネガティブなものが多いです。
でも実際には、居場所がなくて寂しかったり、自分の存在価値を認めてもらいたいだけだったり、困っている状況が原因で性行為をする子や周囲からのプレッシャーを感じている子、大人に騙され搾取されている子が多いのです。
その結果、思いがけない妊娠や性感染症など、より困った状況に陥ってしまう子がいるのが現状です。そうした子を、ただ「自己責任だ」と責めたり叱ったりするのではなく、適切なケアや居場所を与えてあげたり、正しい知識を得らえる場を提供することが大切だと思っています。
こうした現状を変えるためには、大人の理解を広げることも大切です。そのためピルコンでも、大人向けの講座を行ったり、国会議員の方を巻き込んでの勉強会も開催し、より多くの方に現状を伝え、これからの施策を考える機会を作っています。
これからの性教育について
学校教育の中で性教育の大切さは広く認識されてきていますが、実際の教育現場にはそうした余裕がなかったり、制限が多く、伝えられる情報が限られてしまいがちです。
そのため、生徒にアンケートを取ると、知識がほとんど身についていないことも多いのです。
教育の体制を変えるには、ものすごく時間がかかりますし、理想の性教育にたどり着くまでには、10年20年かかってしまうでしょう。
そうした現状では、学校教育以外の手段、たとえばネットやIT技術を使って、情報を届けることも大切だと思っています。
ちょうど最近、妊娠の不安について相談できるLINE Bot(@ninshin-kamo)を作りました。今後、性教育を学べる動画も配信予定です。
今もピルコンでメール相談を受け付けているのですが、「こんなこと誰にも相談できない」「親には絶対知られたくない」といった声がものすごく多いのです。そんな中、不安や悩みを受け止めることができる大人の存在はとても大切だと思うのです。
悩みを受け取る存在は、ものすごく知識豊富じゃなければできないということはありません。性に関しては、もちろん知識も大切ですが、たとえば悩みをまずは受け止めるとか、その人の健康や幸せを応援するとかも大きな力になります。
不安で一歩が踏み出せないとしたら病院や保健所といった専門家のところにとりあえず一緒にいくというのも身近な人だからこそできることですし、性のことは人間関係も深くかかわっています。
相手を大切にしながら自分も大切にすることや、お互いの気持ちを確かめ合ったり、すり合わせられることが性的な健康にもつながっています。最近は性的同意・セクシュアルコンセントについても日本でも注目されていますが、、コミュニケーションを含む性教育の視点を持つことがとても大切です。
人との関係性も含めた性について、早いうちから考えることは重要です。
今では小学生でもアダルトサイトが見れてしまいます。スマホをもっていれば、自分で見ようとしなくても、友達から見せられることだってあるし、変な広告がでてくることもあります。すべての子どもにとって、性情報は身近にある中で、それとどう向き合って、どう体と心を守っていくか、というワクチンとしての性教育は必要なのです。
「寝た子を起こすな」という人もいますが、もう社会に起こされている状態の中では、何が正しい情報なのか、そして安心してお互いを大切にしあえる心地よい関係性について伝えることが求められているのです。
デートDV防止スプリング・フォーラム2019に登壇します
スプリングフォーラム2019では、「若者の恋愛・性のモヤモヤを考えよう!」のセッションで登壇します。
若い人の恋愛は、今どのように変化していっているのか。またその中で、デートDVなどの暴力のない、安心できる関係性を築いていくにはどんなアプローチをとればいいのか、セッションを通して考えて生きます。
そこでは、株式会社AMFという若者向けのマーケティング企業を経営する椎木里佳さんと、自身も当事者でありながらLGBTの情報発信をしている20代の松岡宗嗣さんと一緒に登壇します。
性に対する価値観を変えるために、社会にどう働きかけるのか、Webなどの媒体を使ってどうPRするのか、など幅広い観点からお話出来たらと思っています。
恋愛や性に関する話は、誰にでも関係することです。普段あまり関心がない人でも、ふらっと立ち寄ってもらえると嬉しいです。
イベント情報
デートDV防止スプリング・フォーラム2019
「今、 なぜ デートDV予防教育なのか」
開催日2019年03月03日
開催場所日本財団ビル
開催地住所東京都港区赤坂1丁目2番2号
主催団体NPO法人デートDV防止全国ネットワーク・認定NPO法人エンパワメントかながわ
イベントURLはこちら→https://notalone-ddv.org/info/842/